刀を差した武士と、その武士に斬り殺されたと思われる男の死体。
ページをめくるとさらに数多くの死体が転がっている。
なんとも物騒な物語の幕開けであるが、気になる点は二つ。
一つは、殺された人々がほぼ似たような顔をしていて、さらのその顔が不気味であること。死体だから不気味であるというわけでもない。
もう一つは、耳たぶが異常に長いこと。
なんだろうかと思う暇もなく次のページでは時代が一気に飛び現代になり、ようやく主人公であると思われる少女が登場する。
少女のおかれた環境や少女をとりまく人間関係などがゆっくり丁寧に描かれていく中で、不気味な人形を拾ったあたりから物語がいびつな方向へとねじ曲がっていく。
前作の『刻刻』では爺さんが活躍をし、そういう話が好きな僕にとっては面白い話だったが、今回は爺さんは登場しそうもない。代わりに少女の祖母、婆さんが登場するのだが、この婆さんがちょっと厭な方向で活躍しそうで、その点では少しがっかりでもある。
どうやら、少女が拾ったのは福の神のようで、物語の冒頭で殺された人々の耳たぶが異常に長いのは福耳だかららしいのだが、しかし、福の神といいながらも必ずしも幸福を授けるわけではない。いや、幸福を授けるのであるが、その幸福が必ずしも幸せと結びつきはしないうえに、あくまでお金が集まってくるというだけのようでもある。なんでも願い事をかなえてくれるけれどもその願い事が必ずしも幸せに結びつかないW・W・ジェイコブズの「猿の手」を彷彿させる部分もある。
どちらにせよ、ここで授かる福というものが幸せに結びつかないどころかいびつな世界へといざなうようでもあり、次の巻が待ち遠しい。
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