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- 『Pの悲劇』高橋留美子
高橋留美子も藤田和日郎と同じく、とにかく長いお話を描く。どこまでそのことを自覚しているのかわからないけれども、これだけの長いキャリアのなかで、いまだに衰えを見せないのも凄い。しかし、高橋留美子の場合は時々短編を描いている。主に大人向けの話なのだが、高橋留美子は短編を描かせてもうまい。長い連載の合間に、よくもまあこんなに質の高い短編を描くことができるものだと感心するしかない。
表題作はペット禁止の団地でお得意先のお客さんが飼っているペットのペンギンを一時的に預からなくてはいけなくなったとある家族の話。短編ながらも4つの章に分けられ、それぞれ「P」で始まる単語の題名がつけられているという凝りよう。団地の中でも動物をこっそりと飼っている人もいて、一方で規則を厳守する運動をしている人達もいる。双方の対立する中、主人公一家は預かっているペンギンの秘匿に苦労をするのだが、登場人物の一人が言う「動物が好きな人は善人で、嫌いな人は悪人なのか」という言葉は考えさせられる。
この短篇集の中で唯一、コメディでないのが「鉢の中」という短編。嫁と姑の確執の話で、お嫁さんが義理の母をいじめていたという噂が流れる中、真相は全く異なっていたという、これまたタイトルが意味深なタイトルで、本当のことが明らかになっても決して救われるわけではなく、それでも真実を受け入れなくてはならないという辛い話なのだが、こういう話が一本あるだけで、短篇集全体がキリッと締まって良い本となる。
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