北欧ミステリはそれほど読んでいないのだが、今まで読んだ範囲では北欧ミステリというのは重苦しいミステリが多い感じがする。ようするに、パズル性のある本格ミステリではなく、社会派ミステリよりの作品が多いのだ。
もっとも、そういう傾向の作品を主に翻訳しているだけであって、本格ミステリも存在しているのかもしれないが、それでも一種独特の雰囲気を持っていて、少なくとも日本においては北欧ミステリという一つのジャンルを形成している。
そんな中で、アーナルデュル・インドリダソンの小説は身近なレベルで、重苦しいのだ。
ユッシ・エーズラ・オールスンの<特捜部Q>シリーズの場合、そこで起こる事件は陰湿で、主人公自身も重苦しい過去を抱えていてそれが現在進行形なんだけれども、主人公とその仲間達の描かれ方はユーモアにあふれ、読んでいて楽しい。
もっとも、<特捜部Q>シリーズはデンマークでこの本はアイスランドなので、国の違いというものもあるのかもしれないが、訳者あとがきによれば、アイスランドという国では殺人事件は年に二、三件しかないということだ。
そんな国でありながらも、こんな陰湿で、重苦しい事件をミステリとして描く必要があるのかとも思うのだが、犯罪というのは殺人事件だけではない。この物語においては結果として殺人に行き着いてしまったのだが、その手前で終わっている事件というのは存在するのだ。
人口約三十万人、年に二、三件しか殺人事件が起こらない国であっても、それ以外の犯罪、もしくは暴力行為は存在していて、そして、それが故に、アーナルデュル・インドリダソンはミステリとしてそれを描いている。
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