ワンダーランドというタイトルと表紙の雰囲気から『ふしぎの国のアリス』を彷彿させる。
しかし、『ふしぎの国のアリス』はお伽話であり、ハラハラドキドキはあっても殺伐とした物語ではないのに対して、石川優吾が描くワンダーランドの世界は殺伐としている。
主人公は女子高生。ある朝目が覚めると、自分の体が10センチメートルほどに小さくなってしまっていることに気がつく。
台所に行くと両親も同じように小さくなっているのを発見するが、両親は飼猫に弄ばれて殺されてしまう。飼猫に殺意があったわけではなく、小さくなってしまった飼い主をおもちゃだと思い、ぬいぐるみのおもちゃと同じ扱いをしただけだったのだ。
小さくなってしまう現象が起こったのは日本全国ではなく、主人公たちの住む街周辺だけで、さらに小さくなってしまったのは人間だけらしく、自衛隊がのりだしてくるのだが、彼らはここで何が起こっているのかを把握している、つまり政府はこの現象を理解しているということなのだが、小さくなってしまった人間を助けるということは行わない。
主人公は襲いかかる動物たちと自分たちを捕まえようとする自衛隊の手から逃れるパニックサスペンスの様相で終わった1巻だが、2巻に入って、事件の真相が少しづつ明らかになってくる。
何故、主人公たちが小さくなってしまったのか、何故、自衛隊の行動がこんなにも早いのか、何故、人間だけが小さくなってしまったのかなど、かなりの謎が明らかになる。
何故、人が小さくなるのか、どうやったら小さくできるのかという問題に関しては特殊な能力を持った人間がその能力を暴走させた結果という説明がされている。これに関しては物語の中でそれなりの説得力があれば、実際にそういうことができるかどうか突っ込みを入れるなどという無粋なことはするつもりはないが、人体を小さくすると同時に質量も減少させるという言及があったのには感心した。
つまり、この物語の中では人体を小さくするのに、構成している物質の大きさを小さくするのではなく、質量を減少させることによって小さくさせているのである。これだったら、小さくなった人間でも呼吸ができるし、飲食も可能だ。
些細な部分ではあるが、神は細部に宿るという言葉通り、物語の説得力が上がる。
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