『ごっこ』 追悼 小路啓之

主人公は30歳男性、独身、引きこもり、オタク、ロリコン、そして3歳になる娘と一緒に生活している。
最後の部分だけがそれ以前のプロフィールと矛盾しているのは、その娘は主人公が誘拐してきた娘だからだ。
では主人公は完全なクズなのかといえばそうとも言いきれない。
彼の父親は彼の将来のことを憂いて、自分の年金を息子がそのまま受け取り続けることが出来るように知人に後を委ね、自身は自殺をする。遺体は白骨化し床下に安置されている。
そのような父親の思いを知りながらもそのまま父親は生きていることとして、働きもせずに父親の年金をもらって生きている主人公はやはりクズなのかもしれないが、それでも、自分自身の弱さは理解している。
だからある時、悔やんで自らも自死をしようとするのだが、そのときに向かいのアパートのベランダに一人の少女の姿を見つける。少女は傷だらけで、助けを乞う顔をしていた。
主人公は、少女のいるベランダに飛び移り、少女を捕まえ、少女のいた部屋から少女を連れ出す。そして主人公はロリコンだ。
襲いかかろうとする主人公に対して、少女は「パパ」とつぶやく。
そこから主人公と少女との親子ごっこが始まる。
少女が虐待を受けていたこと、主人公が誘拐をした段階で、それまでの記憶を失っていたこと等が少しずつ明らかになっていく。
二人のごっこはいつまで続くのか。
ありえないほど非現実的すぎる設定でありながらも、主人公たちの心情はリアルで、切実で、いつまでもこのごっこが続けばいいのにと思いもするのだが、偽りの人生は長く続くはずもなく、衝撃的な展開を迎え、そしてごっこではない本当の生活が始まる予感をのせてきれいに物語は終わる。

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