『半島の密使』アダム・ジョンソン

  • 訳: 佐藤 耕士
  • 著: アダム ジョンソン
  • 販売元/出版社: 新潮社
  • 発売日: 2013/5/27

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  • 訳: 佐藤 耕士
  • 著: アダム ジョンソン
  • 販売元/出版社: 新潮社
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冷戦時代の閉ざされた国家であったソビエトを舞台としたミステリというと古くはマーティン・クルーズ スミスの『ゴーリキパーク』、新しい所でトム・ロブ・スミスの『チャイルド44』がある。
しかし閉ざされたといっても国家として他国と断絶していたわけではなく、ソビエト国内においても小説等の創作活動は行われていてその作品は他国にも翻訳出版されていた。
それに比べると、北朝鮮という国ははるかに閉ざされた国であり、その国の中で人々はどんな生活をしているのかということはなかなか伝わってこない。
北朝鮮を舞台にした小説というと黒川博行の『国境』を思い出す。しかし、これは主人公が日本人で舞台の半分は日本であるので少し違う。
そもそも、北朝鮮という国を舞台として登場人物も北朝鮮の人間という設定でミステリ小説を作り出すことができるのかというと、かなり難しいのではないだろうか。
ではこの物語がミステリ小説なのかというと少しばかり怪しい面もあって、ミステリ的な要素はあるけれども、『ゴーリキパーク』や『チャイルド44』のようなタイプの物語ではまったくない。
解説によれば、現状の北朝鮮という国を忠実に描いたわけではなく、時としてフィクションとしての面白さの方を優先させているということなのだが、とにかく異質な世界なのだ。
血を分けた両親たちとでも本音で会話をすることができない。それゆえに、登場人物たちの会話は異質で独特の雰囲気を発生させている。それはまるで良質のSFを読んだ時に感じるセンス・オブ・ワンダーに近い。
単純に、表層だけを読み取ればここで描かれる世界はユートピアとは対局にあるディストピアにほかならないのだが、単純にディストピアと決めつけられない世界であり、この物語が北朝鮮という国を描いているという以前に、なにか全く別な世界を描いているような気がしてならない。

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