『盤上のアルファ』

将棋の世界というのはとても厳しく、プロ棋士になるためには様々な難関をクリアしていかなければならない。
そもそも奨励会というものに入る必要があり、さらに昇段していかなければならない。そしてその昇段には年齢制限があって、それぞれの段位において定められた年齢までに規定の段に昇格していなければ奨励会を退会しなければならない。そして奨励会を退会するということはプロの棋士への道が閉ざされたということなのだ。
しかし、瀬川晶司が奨励会を退会した身でありながらも将棋の世界を諦めず、アマチュア棋士としてプロ棋士ですら凌駕する実力でもって、プロ棋士になったことによって現在は奨励会以外にプロ編入制度というものが設けられた。
この物語は年齢制限により奨励会を退会した男がこのプロ編入制度でプロ棋士を目指すという物語なのだが、読み始めて驚いたのが、第一章で描かれる人物はこのプロ棋士を目指す男ではなく、新聞記者の物語だったことだ。彼は社会部に所属していたのだが左遷させられ、文化部に移動、そして将棋のタイトル戦の記事を書かされることとなる。そんな彼の物語が延々と全体の四分の一くらいまで続く。その後になってようやくプロ棋士を目指す男が登場し、彼の物語となって、そこに第一章の新聞記者が関わりあいを持つようになるのだが、構成にちぐはぐ感が漂う。新聞記者を登場させずにプロ棋士を目指す男の物語だけに絞ったほうがよかったような気もするが、それだと、瀬川晶司という実在の人物の物語である『泣き虫しょったんの奇跡』という本があるので生半可な物語では太刀打ち出来ない。もちろん、これが作者のデビュー作ということなので、そのあたりのギクシャクとした感じ、特に時としてノンフィクションっぽい文章になってしまう点などは目をつぶるとして、細かい部分を気にしなければ物語に勢いがあって楽しめる。将棋一筋の生活破綻者である主人公の言動は面白く、さらに彼を取り巻く他の人物達のキャラクター造形も面白いし、ラストは爽やかなので読後感が良いのはいいなあ。

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