いやはや、こんな面白い小説をどうして今まで見過ごしていたのか。
まあ、もっとも、この本が翻訳されたのが1990年、しかも創元ノヴェルズというレーベルで出たのだからあの当時の僕には食指が動かなかったとしても仕方がない。
何はともあれ、こうして復刊したことで読む機会ができたことはありがたいことだ。
主人公はCIAの職員。あと四日後に退職するという時になって東ドイツの諜報部の大物が亡命したがっているがその時の立会人に自分を指定してくるというとんでもない事態が起こる。しかし主人公はこの大物人物に心当たりもなく、さらにいえば主人公自身もCIAの職員とはいえ平凡な人物なのだ。
そこからこの物語は始まり、第二次世界大戦末期の時代の回想へと移る。
この主人公は平凡なCIA職員だったが第二次世界大戦末期にとある重要な任務を帯びていた。
アメリカ軍が捕虜として捕まえてドイツ兵のなかにナチスの大物諜報部将校が一人いた。しかし彼は別名を名乗り、一人の兵士として捕虜となっていたのである。しかし、アメリカ軍部は彼がとある機密任務を帯びて捕虜となっていることを察知し、彼が何をしようとしているのかを突き止めようとする。そこで白羽の矢に立ったのが主人公である。
捕虜となった将校はアメリカ本国にある捕虜収容所に収容される。そこで主人公はドイツ兵の捕虜に扮し、この収容所に潜入し、彼と接触して彼の機密情報を知ることである。しかし、収容所施設の所長を含め、収容所職員は主人公が特別任務を帯びたアメリカ人であることを知らない。したがって収容所内での彼の味方となる人物は誰一人として存在しないうえに外部への連絡手段も存在しない。情報を手に入れたとしてもそれをいかにして外部に連絡するのかに関しても主人公自身が考えださなければいけない。
自分の祖国であるアメリカにいながらも正体がバレれば死しかない最も危険な場所での任務。第二次世界大戦も末期でベルリンに対しても空襲が行われ、ベルリン陥落も間近と噂されるような状況下でヒトラーが起死回生の手段として行おうとしている機密作戦とは何なのか。という謎に加えて、ドイツ語が堪能でドイツ人としてベルリンに潜入して数ヶ月生活したというだけでこの任務につかされた頼りない主人公の行方は気になってしかたがない。
そしてむかえる終盤の予想外の展開と余韻の残すラストはすばらしい。ボブ・ラングラーがこんなにも面白い小説を書く作家だとは思わなかった。
こうなると、彼のもう一つの傑作『北壁の死闘』も手に入れて読まなくてはいけない。
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