それぞれの話が完全に独立しているわけではなく、相互に登場人物が関わりあってゆるやかなつながりを持っている、という構成はべつだん珍しくはないのだが、それぞれの話で視点人物となった彼らが、他の話のなかでは脇役となり、別の視点から描かれるという構成は個人的に好きだ。そしてそういう風に多角的な視点で描かれる登場人物たちは、話を読み進めていくうちに次第に、単なる本の中のキャラクターとしてではなく、一人の人間として感じ取る事ができるようになる。だからこそ、この本の中で描かれる五つの物語を読んで、とうに過ぎ去ってしまった思春期の多感な時代を思い出し、そして切なさとほろ苦さを再び体験するのだ。
とはいっても、僕が中学生だった頃と比較してみると彼らはなんとなくませているような気もするが、それは多分、今という時代を切り取っているせいかもしれないのだが、本質的な部分ではそんなに変わってはいないと思う。
これといって目立った特徴はないけれども、癖がなく、水彩画のような物語だ。
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