スキャナーに生きがいはない

コードウェイナー・スミスの既刊のSF小説は全て読んでいるのだが、こうして人類補完機構全短編なるものが新たに出るとなるとコードウェイナー・スミスのファンとしては買わない訳にはいかない。それがたとえ全三巻になるとしてもだ。
今回はそれぞれの作品を作中における年代順に作品を並べ直したものなので、通して順番に読んでみることでなにかおもしろいものが見えてくるかもしれないと思ったのだが、実際に読んでみると確かにそれまで見えてこなかった、というかコードウェイナー・スミスのなかばハッタリにも似たようなめまいのする世界に騙されて気が付かなかったものをいろいろと見つけることができた。
小説としてはそんなにうまくはないし、ビザール的でそれでいて根底には男女のロマンスがあって、とりあえず奥行きが感じられるのでなんだか凄い話だというふうに感じさせられてしまうだけの話でもある。しかし、その突き抜けさ加減が琴線を揺さぶり続けるので好きな人にはたまらなく魅力的でたまらなく面白い。
一つの年代記となっているけれども、たとえば宇宙航行一つとってみてもスキャナーという存在が必要な航法があって、その次は巨大な帆を掲げた光子帆船の航法、そして平面航法と3つの航法が登場する。だけれどもその3つの航法が登場しなければいけないつながりというのはまったくない。多分、思いついたから登場させただけだろう。
猫がやたらと登場するのもスミスが猫好きだっただけだろうし、でもこの人類補完機構シリーズがスミスの自分の楽しみを満足させるためだけに書かれたものだとしたら、それはしかたがない。一億五千万キロメートルの黄金船とか、窮地を抜け出すために、猫の遺伝子に人類に奉仕せよというコードを書き込んで200万年前に送り込む、そしてその直後に文明を発展させて進化した猫の子孫達が助けにやって来るという展開などはバカバカしいけれども感動する。
次はいよいよ「アルファ・ラルファ大通り」を収録した巻である。

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