またしても父の話である。
あれはまだ僕が小学生だった頃の出来事だ。
小学校から帰ってきた僕を出迎えた父はいきなり僕に、「NHK」は何の意味なのか知っているかと聞いてきた。
父は自宅で自営業を営んでいたので、仕事が一段落したときなどは早めに仕事を終えて家にいることが多かった。なので僕が小学校から帰ってきた時間帯に父がいることも不思議ではなかった。
テレビを見ることは好きだったが、なにしろ小学生である。民放放送ならば面白い番組が沢山やっているけれどもNHKはそういうわけでもない。観る頻度からすればNHKは最下位の放送局でありNHKがなんの意味なのかなど全く興味がなかった。いやNHKだけではなくほかの民放局の名前の意味だって興味などなかった。興味があるのは放送されている番組の内容だけである。それが普通の小学生というものではなかろうか。
なので、とうぜんのことながら僕の返事は「知らない」であり、興味は全く無かったけれどもその返事の後に父はNHKの意味を教えてくれるものだと思っていた。
しかし、父の答えは僕の想像の範囲を超えていた。
「NHKに電話して聞いてみろ」
助けてくれる可能性のある母は買い物に出掛けていていなかった。
電話番号がわからないと答えれば、
「104」で聞いてみろと答える父。
ということで僕はNHKの電話番号を調べ、そしてNHKに電話をかけ、NHKがなんの意味なのかを聞いてみた。
もちろん、父がNHKの意味を知らないはずもなく、おそらくは、知らないことは自分で調べる、ということを僕に身を持って教え込もうとしたのだろうけれども、僕がその時に学んだのは世の中の理不尽さというものだった。
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