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- 『マフィアとルアー』TAGRO
これまでに三回、出版社を変え、絶版と復刊を繰り返してきた。絶版になるということは売れなくなったということだけれども、復刊するということは読みたいという需要があったということだ。この作品は、読者の人生のある一定の期間だけ必要とする作品なんじゃないかと思う。だから一定の期間を過ぎてしまった人たちにとっては必用の無い物語であり、一定の期間を迎えようとする人にとっては必用な物語なのだ。
もっとも、ここで描かれるのは男の弱さとセンチメンタルさなので、女性には必要のない物語なのかもしれない。
表題作が傑作なのだけれども、梶尾真治の『おもいでエマノン』をモティーフにした「トリコの娘」も捨てがたい。
エマノンは有史以来すべての生き物の記憶を持った女性。だからといって不老不死というわけではなく、記憶が子供に受け継がれていくという形で全ての記憶を持っているのだ。一方、こちらは未来の記憶を持っていると主張する女の子が登場する。しかし実際は過去の記憶を一切持たない女の子だ。では何故彼女は未来の記憶を持っていると言うのだろうか。どう考えても現実的に起こりえないことでありながら、この話はSF的な真相に行き着かない。あくまで現実的に起こりうる真相で、だから全ての真相が明らかになった時、悲しくなる。
この話の中で登場するエマノンの本は高野文子の表紙のバージョンが使われている。
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