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- 『ラタキアの魔女』笠辺哲
まず、冒頭の「ボーヤのクリスマス」を読んで打ちのめされた。
主人公はサンタクロースをお手伝いする少年。そして物語はクリスマスが近づいて来たのでそろそろクリスマスプレゼントの準備をしなければいけないというところから始まる。笠辺哲の面白さはサンタクロースとクリスマスに対する考察の部分が論理的なところだ。まず、サンタクロース自身は一人であるということ。次にサンタクロースは鍵のかかった部屋に入ることができ、空飛ぶトナカイに繋がれたソリに乗ることができる。しかしそれ以外は特殊な能力を持っていないという設定になっている。そこで問題になるのは、三つの能力以外は普通の人間と変わりのないサンタクロースが、一夜のうちに世界中の子どもたちにプレゼントを配り終えることができるのかということなのだが、作者が用意した解答がこれまたふるっている。たしかにこれだったら配り終えることができそうなのだ。気になる人は是非読んでみてもらいたい。
続く「トラベルライター」にも笑ってしまったのだが、その後に来る「TUDM」では人間とロボットとの友情がしんみりとさせられる一方で、自我をもったロボットの本能のようなものがさりげなく終盤に物語として浮かび上がり、そのSF的な要素に不意打ちを食らってしまう。
表題作は不老不死と噂される女性と生活を共にすることになった少年の物語である。彼女は噂通りの不老不死で、少年だけが年をとっていく。このような設定の場合、いつまでも若いままの彼女と一方的に年をとっていく主人公の間の愛情の物語が描かれるのが通常かもしれないが、いや、それだけでも面白い物語になるのだが、不老不死の意外な真実の姿が終盤で明かされる。一捻りしてあるのである。
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