『世の終りのためのお伽噺』まどの一哉

  • 著: まどの 一哉
  • 販売元/出版社: 青林工藝舎
  • 発売日: 2013/6/1

Amazon

知らない間に、まどの一哉の新作が出ていた。そもそも僕の住んでいる街では青林工藝舎の新刊が入荷される機会など殆どといっていいほど無いので、ネットでこまめにチェックをするしか無いのだが、まさかまどの一哉の新作がこれほどはやく出るとは思ってもいなかったので気づかなかったのだ。しかしこれが幸運なことに、近所の書店で新作が入荷されていた。このせいでひょっとしたら僕の持っている幸運の量は少し減ってしまったかもしれないが、そのくらいならば構わない。
今回はお伽話をモチーフとした短篇集だ。
お伽話をモチーフとしているせいかその制約に足を取られて、まどの一哉の持つ異常な世界というのが少し薄まっている感じもする。例えば桃太郎をモチーフとした話などはこの本の中で唯一、前編後編という二話構成となっているのだが、だからといってそこで描かれているまどの一哉の異様な世界がそれだけ重厚に描かれているのかというとそんなことはない。紙面の量がどれだけあろうが、まどの一哉の世界は常に一様であり均一でどこか突出した部分があるわけでもなく、物語の中において万遍に広がっている。それ故に、モチーフとなったお伽話との違いというものを求めたくなってしまうのだが、そんなものを求めてもなにも出てこない。求めても何も出てこないのがわかっていながらもなにかの意味を求めざるを得ない気分にさせられるところがまどの一哉の魅力であり恐ろしさだ。
例えば、シンデレラをモチーフにした話などは、舞台は現代の日本、そして主人公は玉の輿を願っているごく普通の女性。彼女は魔法使いのおばあさんの力を借りてパーティに出かけ、そしてそこで金持ちの御曹司と知り合う。しかし、魔法は12時で解けてしまうため、パーティ会場に履いていたガラスの靴を脱ぎ捨てたまま家へと帰ることとなる。
ここまでは原典とおおよそ同じだ、そして原典と異なるのはそこからで、魔法使いのおばあさんは彼女の家に居座っていて、そして彼女の話を聞き金持ちの御曹司の元へと行く。しかし金持ちの御曹司もまた、身分を偽っていた一般人で、それを見た魔法使いのおばあさんは、彼に魔法をかけ王子様になってもらう。しかし、紙面はあと一ページしかない。そして残りの一ページ、たった三コマで、まどの一哉はこの物語を終わらせてしまう。そしてその結末は唖然とする結末なのだ。
竹取物語をモチーフにした話では、物語の冒頭でかぐや姫を彷彿させる女の子が生まれた時、彼女の家の裏の竹が光っていたので切ってみると金のネックレスが入っていたというエピソードが描かれる。そして彼女は地方の芸能プロダクションで歌手を目指すのだが、そこに大手の芸能プロダクションから誘いがかかる。彼女は今の社長を裏切ることはできないと悩むのだが、次のページで彼女は社長を背後からバットで殴り殺してしまう。
さらには、そのバットを手に入れてくれた友人の男性も、こんなヤツとの仲を知られたら今後厄介なことになってしまうと、彼も殺してしまう。こうしてなんのしがらみも無くなった彼女は空を仰ぎ、「私を輝ける世界につれていってくれ」と叫ぶ。
すでに原典と比べると異様な世界でもあるのだが、まどの一哉の真骨頂はその後だ。突如としてUFOが舞い降り、彼女ではなく彼女を引き抜こうとした大手の芸能プロダクションのマネージャーを連れ去っていってしまう。そしてそこでこの話は終わる。冒頭の意味ありげな金のネックレスに関してはなんの説明もない。こんな感じで物語を終わらせる事ができる作者の精神力には恐れ入るしかない。そういう意味では、まどの一哉の漫画を読むという行為は作者の描く異様な世界を受け入れることが出来るかどうかという根競べのようなものでもあるといえるのだが、そんなことまでしなくても面白い漫画はたくさんある。
だからごく一部では評価が高いにもかかわらず一般受けしないのだろう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました