国枝史郎というと『神州纐纈城』、『蔦葛木曽桟』や『八ヶ嶽の魔神』といった作品が有名なので、伝奇小説の書き手という印象が強い。
しかし、実際には国枝史郎は多彩な人だったようで、普通の現代を舞台にした小説も書いており、この本には伝奇小説だけでなく、それ以外の小説が収録されている。
僕にとって、この本の目玉は翻訳怪奇アンソロジー『恐怖街』で国枝史郎が翻訳した怪奇小説だったのだが、それ以外に現代を舞台とした長編小説『生(いのち)のタンゴ』が収録されている。
長編ダンス小説という触れ込みでありダンスには興味がない自分に、この小説が楽しめるのかなと不安があったのだが、実際に読み始めてみると杞憂だった。
現代を舞台としながらも、物語は伝奇小説に通じるような展開をしているのだ。さらにいえば、時代が一周りしたかのような感じで、古びた感じがしなく、むしろ、この時代にこれだけの突拍子もない展開をする物語を書くことができたということに恐れ入るばかりなのだ。
で、この小説の後には時代伝奇小説の短編が収録されているのだが、こちらも短編ながらも実に面白く、「敵討柩の前」などは、ふとしたことから敵討ちの加害者と追手の双方に関わりあいをもってしまった老人が加害者の方に、困ったときには一度だけ助けてやると約束してしまったことに対して、いかにして自分自身の行動をねじ曲げずに正義を貫いて行動するのか、という謎解き要素のある物語だ。
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