今まで過去にしろ現代にしろ日本を舞台としたミステリを書いていた森谷明子が日本以外を舞台にしてさらにミステリではなくファンタジー小説を書いた。
と、読み始めてそう思ったのだが、いい意味で裏切られた。
僕は物語というものが持つ力というものに対して信頼をおいている。だから物語の力というものを信じきった物語を書いている金城一紀の小説などは好きで好きでたまらないのだが、それと同様に森谷明子も物語の持つ力に信頼をおいているように思える。それというのも『深山に棲む声』では人々の間に広まっていく伝承とその元となった出来事とを幾つものエピソードを積み重ねていきながら、物語というものの謎に迫っていく話だからだ。
さらには伝承の裏に隠された真実というだけではなく、伝承そのものが広まるにいたった理由というものにも焦点をあてていて、それはミステリの形式に例えるのであれば動機という部分になる。伝承の裏にある真実を明らかにする行為はミステリにおける謎解きでそして動機も明らかにされるのだ。
一見するとファンタジー小説めいた物語なのだが、あいかわらず森谷明子は裏で凄いことを行なっている。
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