短篇集なのだが、わずか三編しか収録されていない。
といっても、だから物足りないなどということはなく、ようするにもっと読みたいという気持ちにさせられるので、わずか、という言葉が出てくる。
先に、長編の『勇者ヴォグ・ランバ』を読んだわけだが、それも踏まえたうえでこうして短編を読むと、この作者の引き出しの多さに驚く。最後に収録された「辺獄にて」こそはシンプルな構造の物語なのだが、それ以外の二作品はそんな部分にまでアイデアを注ぎ込むかと言いたくなるような密度の濃さで、特に表題作は表層レベルにおいてはボーイ・ミーツ・ガールという物語でありながらも、そこに男性という性の多様性のありかたというSF的なアイデアと概念の構築とそこから発生する社会の変貌というものを描きながらも同時に、それとはまた別の社会様式というものを設定しておいて、二つ、実際にはもう一つの社会が存在するのだが、それらを混ぜあわせたかたちで主人公の恋の物語を描いているのだ。読んでいてお腹がいっぱいになるのだが、だからといって満足できるかというとそうでもなく、冒頭に書いたように、作者の描くもっといろいろな物語を読みたくなってくるのだ。
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