今のところ今年のベストでもいいんじゃないのかと思うぐらいに良かった。独り占めしたくなる小説。
亡くなった妹に宛てた姉の手紙と、死んだのになぜかゾンビとなって主人公の元に現れた恋人とともに死体農場へと旅する男の話が交互に語られる。主軸となる物語はあってないような感じだけど、そこがいい。
二つの話が終盤で一つになるところとかも凄く良くて、片方の話の部分をもう一度最初から読み直したくなる。一見無関係に思える二つの話をこういうやり方で処理できるのかと目から鱗が落ちた。
死という、とくに身近な人の、もうそろそろかもしれないという覚悟をしたとしても、その突然の訪れに対して、主人公の場合はアディショナルタイムを与えてもらったともいえて、死を受け入れるということについての優しさに満ちた話だった。そして悲しみとユーモア。
主人公がスマホに遺されていた彼女の留守録を消すことができず、さらには時々それを聞いているというエピソードがじわりとくる。ぼくの携帯にも父の留守録音が残っている、頻繁に聞くわけじゃないのだけれども、消してしまうとそれで本当に父はこの世界からいなくなってしまう気がして消すことができずにいる。
死んでしまっても誰かがその人のことを覚えている間は、本当に死んだわけじゃないという考え方がある。ぼくの中でもそんな考えがどこかにあって、死なせないための行為のひとつなのかもしれない。
子供のいないぼくの場合はそんなことをする人もいるわけじゃなく、といっても自分にとっては自分自身の死が本当の終りで、死んだ後に誰かが覚えていたとしてもぼくにとってはなんの違いもないのだけれど。
それはさておき、新潮クレスト・ブックスって装丁とか本の作りとか紙ざわりとかがなんか心地いいんだよね。

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