星雲賞受賞作から取捨選択したアンソロジーで、今までにあっても良かったものの無かったアンソロジーだ。
アメリカではアイザック・アシモフがヒューゴー賞受賞作の中から編んだ『世界SF大賞傑作選』があるくらいので、あっても良かったと思うのだが、やはりアンソロジストとしては選択肢が限られて采配の振るいように乏しいというのが誰も編もうとしなかった理由の一つかもしれない。
しかし僕のように受賞作だからといって必ずしも読むわけではない人間にとって、こういうアンソロジーは重宝するもので、特に雑誌掲載されたまま書籍化されたことのない作品が収録されているのはありがたい。
草上仁などは、何作か本が出せるくらいのストックはあるはずなのに、どういうわけか短篇集が出ない。もっとも、出ないのには出ないだけの理由があるのだろうから、ファンとしてはとにかく出たら買うという程度のことしかできないのだが、その一方で、大原まり子のように『エイリアン刑事』の完結編をずっと待ち望んでいながらも、『エイリアン刑事』の完結編はおろか新作も出してくれない作家もいる。
しかし、再読になるのだけれども中井紀夫の「山の上の交響楽」はやっぱり面白かった。「オールタイム・ベストSF」でも書いたのだけれども、国内短篇SFのベスト5を選ぶとすれば必ず入る僕の好きな話だ。
なにが面白いのかといえば、やはり、最後まで演奏し終わるまでに一万年ほどかかるといわれる長大な交響曲が数百年ほど前から演奏されているという冷静に考えると実に馬鹿馬鹿しい設定、さらにはその交響曲がたった一人の人物によって作られたという、これまた冷静に考えればそんな馬鹿なことあるわけないじゃないかと思わせる設定でありながらも、ツッコミを入れさせようとしないだけのたたみかけるような勢いがある点だろう。さらには、演奏の最大の難関を迎えようとする状況化において、この演奏に関わっている登場人物たちが、知恵と工夫をこらして難関を乗り越えようとする僕の好きなタイプの物語になっていることも大きい。
コメント