我が家にも一台の自転車がある。
しかし、自転車も日々メンテナンスをしているわけでもなく、自転車が好きなのかどうかもはっきりとしないというか、別に好きでも嫌いでもなく単なる自分の足がわりに利用しているだけにすぎない。
そしてツール・ド・フランスといった自転車競技も見ることもない。
しかし、自転車競技を扱った漫画や小説は何故か好んで読んでしまう。
この小説は『サクリファス』の純粋な続編という点でまず驚いた。
そもそも、前作の『サクリファス』は自転車レースを扱っていながら、謎解きのあるミステリとしても楽しむことのできる物語だった。
しかし、謎解きがあるからといっても主人公は探偵ではなくあくまで自転車レースの選手にすぎない。だから続編が書かれることがあってもそこでまたミステリ的な要素が含まれるというのは難しい。
実際、この本を読み始めてしばらくすると、この物語のどこに謎があるのだろうかと思ってしまう。
たしかに、しょっぱなからチームの存続の危機に立たされ、主人公を取り巻く状況は不穏な様相を漂わせているけれども、でもそれが前作並みのミステリになるかというとそこまでいきそうな感じがしない。
そんなふうに感じながらも、でも、それが不満になるわけではないところがこの物語の面白い所で、それは主人公の立ち位置によるものでもあるだろう。
この物語においても主人公は、努力すれば優勝できるレベルの実力の持ち主ではなく、あくまでアシストというレベルであるところに魅力がある。
つまり、物語のベクトルが、レースの優勝というところに向かっていないのだ。
だから、自転車レースというものを少し冷めたレベルで描くことができてそれでいて面白い物語になっているのだと思う。
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