その昔、富田靖子主演のNHKのドラマで『ネットワーク・ベイビー』というドラマがあった。当時としてはなかなか秀逸なドラマで、今でこそ当たり前のようになったコンピュータ・ネットワークというものを、あの当時、あんなふうに等身大の日常の身近なレベルにまで融合させた物語はなかったと思う。脚本は一色伸幸だったのだが、そのドラマの放映からしばらくしてノベライズ本が出た。そしてこのノベライズの方もドラマに負けず劣らずの内容だったのだがノベライズを手がけたのは田村章、僕の知らない人だった。そして僕は、この田村章の書いた物語ならば外れることはないだろうと思っていたのだが、田村章の本を見かけることはなかった。もちろん僕が見つけられなかっただけなのかもしれないのだが、そもそも、その後、田村章はその名を捨てて重松清として活躍していたので、僕が田村章の小説を見つけられなくってもしかたのないことだった。
二人きりの家族が仲違いをしてしまうと、そこには「ひとりぼっち」が二人しか残らない。
時代背景が昭和40年代ということで興味を持って見たテレビドラマの『とんび』がわりと面白かったので原作にも手を出してみた。
そもそも、重松清の原作ということであれば奇をてらわずにそのままドラマ化したのであれば決してつまらないドラマになるはずもなく、というか泣かせる話を書かせたら卑怯なまでにうまいわけであって、結局ドラマの方は欠かさず見てしまった。
だた、ドラマのほうは面白いといってもところどころ思わせぶりな演出があって、まあそこのところは今のドラマとしてはそういう風にしなければいけないのだろうなあと目をつぶってしまった部分もあるのだが、ドラマのほうは息子の視点よりで進むのに対して、原作の方は父親の視点のみで進んでいくので、先にドラマのほうを見てその後で原作を読むという順番は正解だったかもしれない。
というか、先に原作を読んでその後でドラマを見たとしたらやっぱり思わせぶりな演出が鼻について仕方なかっただろう。
それを除けばだいたい忠実にドラマ化してあって、小説内のエピソードはほとんどドラマで拾い上げている。
冒頭で引用したのは原作の中の一文だ。
僕達夫婦には子供はいない。
この先もどうあがいても僕達夫婦が子供を得るということは限りなく不可能に近い。
なので、この先ずっと、僕と妻は二人っきりでともに人生を過ごしていくしかない。
なのに、時として喧嘩をしてしまう。
そのたびに「ひとりぼっち」が二人生まれる。
ひとりぼっちは寂しいのだ。特に、相手もひとりぼっちであることがわかっている時には余計につらくなる。
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