『ミステリマガジン2013年5月号』早川書房

  • 販売元/出版社: 早川書房
  • 発売日: 2013/3/25

Amazon

都筑道夫が亡くなってから十年が経過したのだが、氏の訃報を知った日のことは今でも鮮明に覚えている。
ちょうど、光文社文庫で都筑道夫コレクション全十巻の刊行途中で、既読作品が大半ではあったものの、毎月都筑道夫の新刊を手にとることができるということに喜んでいたときのことでもあったため、氏の訃報のショックは余計に大きかった。
しかし、僕は必ずしも都筑道夫の良いファンだったわけではない。
最初は都筑道夫のショートショート集から始まって、それからミステリを読み始めと、少しづつ都筑道夫の世界を広げていったのだけれども、怪奇小説系と時代物系はなかなか手出しをせず、というかかなり後まで読まず嫌いで読もうともしなかった。
そういえば、その昔、僕が学生だったころに同級生の一人から、何か面白い本があるかと聞かれて都筑道夫の小説を薦めたことがあったけれども、しばらくして彼が都筑道夫のとりこになったとき、彼は<なめくじ長屋>シリーズが一番面白いといったのに僕は<なめくじ長屋>シリーズは一冊も読んでいなくって、せっかくファンが一人増えたのに、お互いに好きなジャンルが異なってしまって、会話が続かず少し気まずい思いをしたことがあった。
そんなわけなので、未だに未読の作品があるのだがそれはともかくとして、今回のミステリマガジンの特集は都筑道夫ファンにとっては嬉しい内容で、単純に都筑道夫の作品を載せるだけではなく、加田伶太郎の「女か西瓜か」が収録されていたり、山口雅也が責任編集したミステリマガジン2012年10月号に掲載されたレイ・ブラッドベリの「町みなが眠ったなかで」の解答編にあたる「月は六月その夜更けに」が収録されたりと、作家としての都筑道夫だけではなく、評論家、翻訳家としての都筑道夫も取り上げられている。
その他「資料と研究」としては、新保博久の「ミステリマガジン初代編集長の出来るまでとその後」と、日下三蔵の「都筑チルドレンの系譜」が面白かった。「ミステリマガジン初代編集長の出来るまでとその後」は、紙面の分量はそれなりにあるけれども、もっと続きを読みたくなる内容であり、「都筑チルドレンの系譜」はチルドレンとありながらも都筑道夫の師であった大坪砂男に関しても触れられていて、ちょうど東京創元社文庫で大坪砂男全集が刊行途中ということもあり、特に先月末に出た全集二巻には都筑道夫による文章が多数収録されていていたりして、狙ったかのようなタイミングの良さがうれしい。
その後、たくさんの作家が亡くなったのだが、都筑道夫以上にショックを受けた作家はいなかったし、多分この先もいないだろうと思っていたのだが、今日、殊能将之の訃報を知ってあの時と同じぐらいのショックを受けた。
まったく、エイプリルフールだというのにこんなにも辛い真実をつきつけられたのは生まれて初めてだ。
多分、この先十年経っても僕は今日という日を忘れないだろう。
都筑道夫、殊能将之、ともに博覧強記の人だった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました