同じ版元から出た『ボトルネック』に連なる物語のようにも見えるけれども、物語的にはまったくつながりはない。
というか、米澤穂信がこんな物語を書いたというところにもう一つの驚きがある。
地方都市を舞台にして、その地方に根付く因縁めいた出来事と、さらには予知能力、登場人物が作中で語るように、この街にはなにかがあるという言葉がぴったり来る、ホラーよりの展開をするのだ。恩田陸が描く雰囲気が近いのだけれども、ここは『時をきざむ潮』の藤本泉が一番近い感じがするといっておこう。といってもそれをそれほど固辞するつもりもないけれど。
前作の『折れた竜骨』では魔法を扱っていし、『ボトルネック』ではパラレルワールドを扱っていたので、今回登場する予知能力に対してそれが存在するという前提で話が進むかもしくは最終的に存在するという形で物語を成立させるのか、それとも予知能力など無いという方向に行くのか余談を許さないまま物語は進む。また一方で、因縁めいた「タマナヒメ」という伝説にもとづく出来事が、伝説上だけではなく過去を遡ってこの舞台となる街には実際に存在しているという事実が、物語の終盤に起こるであろうと想像させる恐ろしい何かに向けて、不気味な予兆を抱えたまま本格ミステリではない領域へと引っ張っていく。
終盤、その何かが起こるのだけれども、それは矢継ぎ早やであり、同時に唐突でありながらもこの奈落の底めがけての一直線の急展開は、さすがは米澤穂信だと言わざるを得ない。
さらにいえば、物語は合理的な解釈もしくは非合理的な解釈のどちらかの地点に綺麗に着地するのだけれども、その後で、その可能性を否定された片方の地点にも着地する。
うーむ、こんな物語を書いたあとで、次はどんな物語をみせてくれるのだろうか。
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