法月倫太郎というと本格ミステリ、特に後期クイーン問題の人というイメージなんだけれども、この本に収められた作品はそんなイメージからちょっと離れた話が多い。
しかし、ロバート・トゥーイの『物しか書けなかった物書き』を編集したことがあるだけあって、本格ミステリから外れた部分に対して全く興味がないわけではない。
とくに、オフビートと言う言葉を使うだけあってか、本格から外れた部分においても面白い話を書いてくれそうな感じがあったのだが、その結果がこの本となっているともいえる。
表題作はミステリというよりも論理パズルといったほうが近いくらいなんだけれども、1440個の時計からたった一つの正解の時計を見つけ出すという一見すると不可能じゃないかとも思える問題を鋭い論理で正解へと導いていく様子は読んでいて気持ちがいい。
一方で、「猫の巡礼」のようなミステリではない、ようするにちょっと不思議な話もあって、さすがに他の話と比べると切れ味というものが全くないせいか、浮いている感じもしないでもないけれども、こういう話も書くことができるんだと思うと、こういう系統の話もたまには書いてくれればいいのにと思う反面、そもそも寡作なので、こういう外れた話は書く余裕がないのかもしれない。
しかし、あいかわらず丁寧に自作の解説をしてくれる人だなあと思うのだった。
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