中田永一の正体が暗黙の了解的に乙一であることは知られていたけれども、作者が同一人物であるとおおやけに公表していないのであれば、読者も中田永一が乙一であると公開の場で書くのは無粋なことだと思うのだが、乙一自身が中田永一であることをおおやけの場で認めてしまったので、もはやそのことを隠す必要も、曖昧な書き方をする必要もないのだが、作者に認められてしまうと僕としてはなんだか居座りが悪いのだ。
そもそも、前作の『百瀬、こっちを向いて』を読んで以来、乙一名義の小説は全く読んでいない。
それなのにこうして中田永一名義の本はしっかりと読んでいるのだからなんだか変な気持ちもする。先に書いた通り自分の中では中田永一と乙一は別人物という気持ちが存在するので、中田永一の本は読んでも乙一の本は読まなくっても何の問題もないのだが、同一人物となると、その違いの差がなんなのだろうかという気持ちがモヤモヤとしたまま残り続けている。まあそれは乙一名義の本を何冊か読んでみれば判ることだろう。
で、今回は前作と比べると、作者が仕掛けるトリックのようなものがチラホラと見受けられる。
第一話の「交換日記はじめました!」は、普通は男女二人の文章のやりとりだけで終わるはずの交換日記が、次第に他の人物の書き込みが混じり、更には数年の年月が経過し、最初の二人がまったく登場しなくなり、いったいこの交換日記はどこへ到達するのか予想もつかなくなる話でありながらミステリ的にも面白い仕掛けがある。表題作も同様に最後に意外な真相が明らかになる仕掛けがありながら、その他の話もやっぱり恋愛小説で、甘酸っぱさと可愛らしさと微笑ましさで満ちている。
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