- 訳: 田村 義進
- 著: ウォーレン マーフィー
- 販売元/出版社: 早川書房
- 発売日: 1990/08
ウォーレン・マーフィーなんて日本ではもう誰も読もうなんて思わないだろうし、この先も再評価される可能性なんてものすごく低いだろう。実際、保険調査員のデヴリン・トレーシーが活躍する<トレーシー>シリーズが翻訳されたとき、最初の一冊だけは読んだのだが、それっきりになってしまった。
そもそも最初の一冊を手にとったのも、表紙の絵が吉田秋生だったせいで、吉田秋生以外の絵だったら手に取らなかったかもしれない。
けれども、それから数十年の月日が経ち、なぜか僕は保険調査員のデヴリン・トレーシーが活躍する<トレーシー>シリーズがわりと気に入っているのだ。
ウォーレン・マーフィーというと<デストロイヤー>シリーズの方が有名だろうけれども、こちらの方はアクション物なのであまり興味がなかった。もっとも、『デストロイヤー―血の福音』などはあらすじだけを見ると、
合衆国の陸軍基地で奇妙な事件が続発した。何人かの従軍僧が姿を消し、ついで兵士たちがゾンビーと化した。宗教の力でアメリカ軍をわがものにせんとする伝道者とレモの対局。
と、なかなか面白そうな内容だったりする。
一方、<トレース>シリーズの方はマシンガンジョークの軽ハードボイルドで、名作とか傑作の部類ではまったくない、もっともシリーズ第四作の『ブタは太るか死ぬしかない』はMWA賞を受賞しているのだが、シリーズ全体を見れば気軽に読んで楽しんで読み終えたら忘れてしまうような話だ。
この『愚か者のララバイ』はシリーズ最終作で、売れなければシリーズの途中でも翻訳が終わってしまう昨今の出版状況を鑑みると、当時はまだ余裕があったのか、それともそれなりに人気があったのか、とりあえず最終作まで翻訳されていた状況はありがたい。
とはいうものの、最終作の内容が最終作にふさわしい内容なのかといえばそうでもなくなんだか中途半端な状態で終わってしまっている。ようするに続きを書こうとすればいつでも書くことが出来る状態なのだ。
というわけで、このシリーズはどの話から読み始めてもまったく問題もないともいえるが、最終作はそれまでとちょっと違っていてわりと正統派のハードボイルドになっている。
主人公トレースと彼がボディーガードをすることとなった俳優との関係はどことなくレイモンド・チャンドラーの『長いお別れ』のマーロウとレノックスの関係を彷彿させる。やがて殺人事件が起こり主人公のトレースは事件解決に適当に奔走し、今回はトレースが大活躍するのかと思いきや最後の最後においしいところを相棒のチコに持っていかれて物語の幕は閉じる。
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