どういう経緯があったのかわからないけれども、ちくま文庫からキース・ロバーツの『パヴァーヌ』が復刊された。近刊でアーシュラ・K・ル=グインの『コンパス・ローズ』も復刊される予定で、どちらも越智道雄による翻訳なので越智道雄がらみで何かあるのかもしれない。だからといっても『スラデック言語遊戯短編集』や『イースターワインに到着』までもがちくま文庫で出るとは思わないけれどもね。
それはともかくとしてキース・ロバーツの『パヴァーヌ』はこれで三回目の出版となる。最初はサンリオSFから出たのだが、出たのがサンリオがSFの出版から撤退する数ヶ月前という時期だったせいで、出て数ヶ月もしないうちに絶版。僕はかろうじてリアルタイムでサンリオSFに接していたので買うことはできたのだが、名のみ評価の高かったこの『パヴァーヌ』、僕の悪い癖で手に入れたことで満足してしまい、中身を読むこともなくそのまま積読状態になってしまったのだ。
結局、僕がキース・ロバーツの『パヴァーヌ』を読むことになったのはそれから13年が経過して扶桑社から再刊された時のことだった。扶桑社版は、サンリオSF文庫版では省略された図版が各章の最初に掲載され、さらに解説と訳者あとがきがサンリオSF文庫版のものにさらに加筆された完全版とでもいうべきものだったので、今回のちくま文庫版は見送ろうと思ったのだが、ちくま文庫版は僕の想像のさらに上を行っていて、これぞ完全版とでもいうべきものになっていたので思わず買ってしまった。
結局サンリオSF文庫版、扶桑社版、ちくま文庫版と計三冊所有してさらに今回、めったに再読などしない僕が『パヴァーヌ』に関しては再読してしまったくらいで、どんだけ『パヴァーヌ』が好きなんだと自分に問い詰めたくなる気もおこる。
歴史改変ものの小説だと最近ではジョー・ウォルトンの「ファージング三部作」やアラン グレンの『鷲たちの盟約』、マイケル・シェイボンの『ユダヤ警官同盟』とかがある。
どれもエンターテインメント色がわりと強く、それに比べると『パヴァーヌ』はエンターテインメント色が薄く、さらにいえば、どこが歴史改変ものだと思ってしまうような部分もある。というのもある特定の時代だけを描いた話ではなく、七つの短編による異なる時代を描いた歴史小説でありながらも、エリザベス一世が暗殺され、その後の歴史の流れが大きく変化しながらもそれは数ページにすぎないプロローグの部分で終わり、第一章が始まった時には既に大きく変化し終わった後の物語になり、そこから大きく物語が変化するまでに幾つかの章を隔てなければならないからだ。
しかし、幾つかの時代を切り取った複数の短編という形をとっているために、大枠での歴史改変の物語という楽しみと、さらには個々の短編における登場人物たちが、もし他の行動を取っていたら、例えば第一章の主人公であるジェシーがマーガレットと結ばれていたとしたらこの『パヴァーヌ』という物語は個々に描かれた結末とは異なる結末に向かっていたかもしれないというもう一つの歴史改変の物語をも読者に想像させる余地を残している。
『パヴァーヌ』キース・ロバーツ

コメント