前作も前前作も読まないといけないと思っていたわりには『死刑囚』を読んでからだいぶ間が開いてしまった。
この作者の翻訳作品は今のところ全部で三作しか出ておらず、慌てて読むのはもったいないので、のんびり構えるのもしかたのないことだけれども、間が開いてしまうと主人公たちの設定など忘れてしまうのであまり芳しくない。
もっとも、そういう部分は『死刑囚』の前の作品なのでちゃんと説明がされているので、忘れてしまっていてもそんなに影響はないのだが、なんとなく自分の記憶力のなさをあからまさに見せつけられてしまったようで居心地が悪いのだ。
で、今回はすっかり忘れてしまっていた主人公自身の事件と、人身売買に関する事件が組み合わさる。
正直な話、その二つが組み合わされなければいけない必然性も見当たらず、その部分において物語上の衝撃的な真相といった部分にはかかわらない。
というか、『死刑囚』のような話を期待すると期待はずれに終わるので、ミステリとしての完成度という点では『死刑囚』のほうに軍配が上がるのだが、作者が描きたかった部分はそんな部分にはないのだろう。
一般的に北欧諸国というと社会保障のしっかりとした国というイメージが強い。そんな国と犯罪というのはなかなか結びつかないのだが、やはりどの国においても犯罪は存在し、そして今回、作者たちが明らかにさせる犯罪というか、スウェーデンという国における闇の部分というのは、『死刑囚』におけるアメリカとスウェーデンにおける強国と弱小国という政治的な力関係と同じように、スウェーデンとリトアニアにおける力関係に密接に結びついている。
今までに何冊も後味の悪い小説を読んできたのだが、世間知らずの無知であったためとはいえ、リトアニアからスウェーデンへと人身売買されそして売春婦として奴隷並みに扱わられた女性の報復と抗議の物語は、善をなそうとする者が取った苦渋の決断さえ無に返してしまうような後味の悪さをもって幕を閉じる。
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