ダシール・ハメットの『マルタの鷹』をようやく読む。
このあまりにも有名な小説を今まで未読だったのは、レイモンド・チャンドラーの小説と違って、名セリフが無かったせいだろう。
多分、僕にとってのハードボイルドというのは名台詞のあるなしで大きく異なるのだ。
もちろん、ハメットは『血の収穫』だけは読んでいて、一応、書かれた順番通りに読もうとする気持ちはあったのだが、『血の収穫』の主人公はコンチネンタル・オプと呼ばれ名前を与えられていないうえに、主観的な描写がなく、そういう点では主人公に感情移入しにくい物語であり、無論そこがこの物語の要の部分でもあるのだけれども、当時まだ高校生だった僕には、ダシール・ハメットの世界はまだ早すぎた世界でもあったのだ。
もちろん、『血の収穫』は面白かったのだけれども、その面白さが次の『マルタの鷹』にまで結びつくまでには至らなかったのである。
しかし、結果として今回、改訳決定版と記された『マルタの鷹』を初読として読むことができたのだから、怪我の功名というべきかもしれない。
ハードボイルドに名台詞など必要ではなく、といっても『マルタの鷹』の中での主人公サム・スペードの台詞は洒落ていて、そしてかっこいいのだが、感情的にならずにドライに徹するハメットの描き方は、チャンドラーと比べると全く異なる魅力がある。
そして、このドライな味はちょっと癖になりそうで、次は『デイン家の呪い』か『ガラスの鍵』あたりを読んでみたいと思う。
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