PHP文芸文庫で出た『きりしたん算用記』を書店で見かけた時、妙に気にかかったので、多分この本は面白いに違いないと思ったのだが、この作者が、この本の前に『算法少女』という小説を書いていて、こちらの方も評価が高いことを知ったので、とりあえず先にこの『算法少女』の方を読んでみることにした。
『算法少女』という題名の本は二冊あり、一冊は安永四年、1775年に出版された唯一女性名義で出版された和算書。そして、もう一冊がこの本である。もちろん同じ題名であることに意味はあり、遠藤寛子の『算法少女』は、安永四年に出版された『算法少女』の作者の物語を描いているのだ。
作者がこの物語を書くに至った経緯は作者によるあとがきに詳しく書かれているし、物語そのものは、もともとが子供向けに書かれた小説なので奇をてらったような物語ではないし、同じ和算を扱った小説である冲方丁の『天地明察』と比べてしまうと、だいぶ分が悪い面もある。
しかし、物語の面白さというのは様々で、この本はこの本でしか出せない面白さがある。それはこの本が、江戸時代という時代を描いていながらも、初めて出版された1970年代当時の様相をも反映しているからに他ならない。だからこそ、ちくま学芸文庫で復刊されたときでも、初版と同じく箕田源二郎の挿絵が省略されることなくそのまま挿入されて復刊されたのだ。
古い本を読むことの楽しさというのは、そこに書かれた物語を読むということだけではなく、本全体を読み取るという楽しさがあるのだ。
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