『ディミター』ウィリアム・ピーター・ブラッティ

  • 訳: 白石 朗
  • 著: ウィリアム・ピーター・ブラッティ
  • 販売元/出版社: 東京創元社
  • 発売日: 2012/9/21

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『エクソシスト』を書いた作者として有名なウィリアム・ピーター・ブラッティの新作。八十二歳にしてなお、これだけの話を書くことができるというというのは驚きなのだが、土屋隆夫は九十歳で『人形が死んだ夜』というミステリを書いたからまだまだ上には上がいる。
まあ、土屋隆夫のことはさておいて、『エクソシスト』は映画の方は観たけれども小説の方は読んでいない。もともとホラーが嫌いなので、とりあえず映画の方だけ観ておけばいいや、というか映画の方だけでもう結構という気持ちだったので、読むつもりなど最初からなかったし、多分、大部分の人と同じようにウィリアム・ピーター・ブラッティって、ホラー系の小説を書く作家だと思い込んでいたのだ。
が、今回の『ディミター』はホラーであれば灰色の背表紙なのに、なぜか黄緑の背表紙だ。どうやらミステリらしいということで興味がでて読んでみることにしたのである。
物語は三部構成だが、三部目は解明編なので、大きく言えば第一部のアルバニア編と第二部のエルサレム編に別れる。第一部が、この国で捉えられた謎の男を拷問にかけながら尋問する話で、だからといって痛々しい話ではなく、どんな拷問にも悲鳴すら上げず、ひたすら沈黙を守り続ける男という存在と、少しづつ細切れに描かれる物語の背景的な情報の中で、何が起こっているのか、そしてこの物語がどんな地点へと向かっていくのかさっぱりわからないまま第一部は幕を閉じる。
第二部に切り替わってもそれは同じで、1967年に無神国家宣言をして一切の宗教を禁止したアルバニア、そしてキリスト教の聖地があるエルサレムという2つの国を舞台にして、奇跡としか思えない現象と、殺人、唐突に挟み込まれるモノローグ。物語の構成は複雑で、何が起こっているのかさっぱりわからないまま読み続けるというのは苦痛でもあるのだが、しかし、物語全体の大枠は非常にシンプルで、ディミターとは何者なのかという謎よりも、ディミターが何をしようとしていたのかという部分の真相は衝撃的だ。
そして、真相が解明された後で再び物語を振り返ってみると、一見無関係そうにも思えたエピソードが、無関係ではなかったことに驚きを覚える。
しかし、そんなミステリ的な面白さの部分よりも、全ての真相が明らかになった後のエピローグ的な部分に、この物語の本当の面白さと凄さがあって、素晴らしい余韻のある結末を迎えるのだ。

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