第一長編『ねじまき少女』と短篇集『第六ポンプ』ときてパオロ・バチガルピの第二長編が翻訳されるのだから、期待しないほうがおかしい。
しかし、今回も、先に翻訳された作品のような世界を堪能させてくれるのだろうと思っていたら、第二長編である『シップブレイカー』はヤングアダルト向けに書かれた物語だった。
無論、ヤングアダルト向けといっても、そこは子供向けというで手加減しているわけではなく、ロバート・A・ハインラインのジュブナイルのように、厳しい現実というものを突きつけている。
その証拠に、物語が始まっても主人公を取り巻く悲惨な現実が延々と描かれるだけで、胸踊る冒険活劇は始まる気配すら見せない。百ページくらいを過ぎてようやくキーパーソンとなる少女が登場するが、その少女が登場してもまだ主人公の冒険は始まらない。始まらないどころか主人公は死にそうになる。
中盤過ぎてようやく物語が動き出すのだが、基本的に一本道のストレートな展開で、まあ、残りの紙面の分量を考えればそれほど複雑な物語を描くことなどできないし、ヤングアダルトということを考えれば、無理のない話だが、逆にいえば、一本道の物語をどこまで楽しませてくれるのかという点において、ストーリーテリングの旨さというのが要求されるわけでもある。
物語が終わっても、この物語における悲惨な現実は変わらないのだが、それでも主人公は以前よりも成長し、もっともそれは通過儀礼としての父親殺しという厳しい試練の結果でもあるが、未来に希望のある結末で、読んで楽しい物語だった。
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