『ニセ札つかいの手記 – 武田泰淳異色短篇集』武田泰淳

  • 著: 武田 泰淳
  • 販売元/出版社: 中央公論新社
  • 発売日: 2012/8/23

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武田泰淳って、『ひかりごけ』のイメージがあまりにも強すぎて読んだことがない。
そもそもその原因となった『ひかりごけ』だって、人肉を食べるという話ということを知って、それで読むことができないまま今までに至っている。それだけ人肉を食べるという行為が、一人の作家が書いた本の全てをを読ませなくさせるだけの影響力のある事柄だったということで、武田泰淳の本の中でもう一冊、たやすく入手することのできる本である『十三妹』の表紙が鶴田謙二であってもそれは消し去ることができないものだった。
が、年をとるに連れて人肉食とに対する影響力も薄まったのか、今回こうして出版されたこの短篇集には、読んでみたいと思わせるだけの何かがあった。多分それは武田泰淳の影響力そのもので、『ひかりごけ』で武田泰淳という作家を知ったその時から、読んでみたいという気持ちと読んでみたくないという気持ちが拮抗し続けていたのかもしれない。
異色短篇集と題してあるだけあって、奇妙な味というべきか、いや単純に奇妙な味と言い切ってしまうことができるほど単純な話ではないのだが、『「ゴジラ」の来る夜』などはあのゴジラが武田泰淳のフィルターを通した形ではあるけれども本当に登場し、街は破壊され、人は死んでいくのだ。途中の展開もさるものの、この物語の結末は唖然とするような話で、思いっきり脳天を殴られたような感覚に陥る。
『誰を方舟に残すのか』はエッセイのような感じで始まり、二本の映画を挙げて極限状況下における決断というものについて語っていいるかと思いきや、後半ではタイトルにもあるように聖書のノアが登場してノアと三人の子供たちの聖書では書かれなかった裏話的な話になる。
「異色」とあるだけあってバラエティに富んだ作品集でありながらも、根底に武田泰淳としか言いようのない独特の感覚があるのが面白い。
これでようやく武田泰淳の本を読むことができそうな感じがした。
次はさしずめ、『十三妹』かな。

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