美術を扱ったミステリというと真っ先に思い浮かべるのが、北森鴻の作品なのだが北森鴻が亡くなって久しい。
特に、<冬狐堂>シリーズは一作目二作目が長編だったのに、その後は短編が主体となってしまっていたのが残念で、でもいつかは<冬狐堂>シリーズの長編を書いてくれるだろうと思い続けていたのだが、その願いも叶わぬ願いとなってしまった。
北森鴻と比べるわけではないが、門井慶喜も美術を扱ったミステリを書いていて、どこか北森鴻と同じ匂いを感じさせてくれる。
それは美術を扱わない門井慶喜の他の作品においても同じで、北森鴻亡き後の空白を埋めてくれるのに十分な存在でもある。
前作の『天才たちの値段』の最終話で、コンビ解散に等しい状況になってしまったので続きは書かれないのかと思っていたら、続編が出た。『天才までの距離』という題名で、それは主人公たちの距離を指し示す意味も含まれており、そういった細かな部分に様々な意味と含みをもたせているあたりが僕好みで読んでいてうれしくなる。
美術の真贋を目ではなく、舌で感じ取るという主人公の設定が前作以上に面白い使われ方をしていて、まだまだ続きを書いてくれる余地を残してくれているのでこのシリーズの続きが楽しみなのだ。
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