夜、突然にしらたまを作りたくなり、台所でしらたまを作っていると三年間行方不明だった夫が帰ってきた。
行方不明だったというよりも三年前に亡くなっていたらしい。では、しらたまを作っている妻の眼の前にいる夫は幽霊なのだろうか。
そんなちょっと唐突でちょっと不思議な状態でこの物語は始まるのでが、そこから普通に想像するような方向へは物語は進まない。
夫に連れられて妻は旅へと出かけることとなる。そしてその旅は、夫が亡くなった場所から三年かけて戻ってきた道のりを逆にたどる旅だ。
妻は夫が行方不明になって、最初の一年は捜索にあけくれ、次の一年は何もしないまま、そして三年目にようやく自分の生活を取り戻そうとし始めていた。そんな矢先に、触ることも会話をすることもできる死者となって夫が帰ってきたのである。
夫婦であったとしても、相手のことをすべて理解しているわけではない。一番身近な他人で、そして一番近い、大切な人である。
旅をしていくうちに、三年前に何が起こったのか、そして三年間の間に何があったのかは少しだけわかってくるのだが、それ以上にわかってくるのは、この物語の主人公である二人が旅をすることによってより一層お互いのことを理解しあうことができたということである、たとえそれがこの旅の終わりに再度、永遠の別れが訪れることがはっきりしていたとしてもだ。
そして、夫婦になるということは、そうやってお互いに自分の世界を少しずつ広めていくということなのだ。
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