今はもう行く機会が無くなってしまったが、昔はわりと植物園に行った。
植物園というのは動物園と違って、行く季節、時期によって景色が変わるので、時期をずらせば前回とは異なった景色を楽しむことが出来る。
だからといって植物を愛でるなどという趣味があったわけではない。ようするに手ごろな場所で、先に書いたように時期を変えれば何度でも楽しむことができるという身も蓋も無い考えからだった。
見に行くたびに様相が変わり、全体像というものがよく見えない。
梨木香歩の『f植物園の巣穴』もある意味、全体像がなかなか見えてこない面白い物語だった。
夢なのか現実なのか、どこからどこまでが確かな世界なのか、読み進めていってもなかなか見えない。
たとえば、前世が犬だったという歯医者の奥さんなどは、この物語に初めて登場するときは犬の姿で登場するのだ。
主人公が今まで生きてきた人生の中で出会った女性の多くは何故か千代という名前だったりと、この物語はそういう不思議さと曖昧さを楽しむ物語なのだと思っていると、最後になって驚く。
不思議な部分は不思議な部分として残っているのだが、主人公自身の物語に関してはそれまでのさまざまな出来事が伏線であったことに気づかされ、良質のミステリを読んだときのような驚きとそして胸に染み入る感動を与えてくれるのだ。
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