僕にとって森見登美彦の最高傑作は『きつねのはなし』だ。
しかし、たぶんほとんどの人はそれ以外の小説を選ぶだろう。
確かに『きつねのはなし』はそれまでの森見登美彦の小説にあった滑稽さや可笑しさというものはなく、その点でいえば傑作ではなく異色作だといったほうがいいのかもしれないが、僕は森見登美彦が持っているファンタジーの部分をシリアスな形で昇華させた『きつねのはなし』が好きなのだ。
で、『宵山万華鏡』も連作短編集なんだけれども、冒頭の「宵山姉妹」が『きつねのはなし』と同じ香りのする物語だったのでうれしくなった。
が、うれしい気分もその一編だけで、次の話ではいつもの森見ワールド全開という感じで、しかもエピソードが進むにつれて「宵山姉妹」の幻想性に現実が侵食し、そう、現実の世界に幻想が侵食するのではなくその逆であるところが面白い点だが、怪異が解体されていく一方で幻想が再び現実に侵食しはじめていく展開もあり、双方の良いとこ取りをした感じもある反面、どっちつかずになってしまった感じもしないでもない。しかしどっちも楽しめたのだからまあいいではないかという気持ちで本を置いた。
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