『ドーン』平野啓一郎

  • 著: 平野 啓一郎
  • 販売元/出版社: 講談社
  • 発売日: 2012/5/15

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平野啓一郎の小説を読むことがあるなんて思いも寄らなかった。
佐藤亜紀によるパクリ騒動も多少は影響していたが、そもそも平野啓一郎が書く小説はSF、もしくはそれに類似するジャンルの小説ではなかったからだ。
が、『ドーン』はなんだがSFっぽい設定だ。
時は2036年という近未来、人類初の火星への有人飛行が行われ、さらには分人主義という概念、こうなると、この物語が本格SFでなくっても、さらには作者がSFを書くつもりがなかったり、またはSFを書くつもりだったけれども失敗していたとしても、とりあえず読んでみようという気持ちになってくる。
乾くるみの『スリープ』も2036年が舞台だったし、未読だが、東浩紀の『クォンタム・ファミリーズ』も2036年を舞台のひとつとしている。現実の世界においては、過去にジョン・タイターという男が2036年からタイムトラベルをしてきたということでネット上を騒がしたこともあったし、時刻を同期させるために使われているNTPの2036年問題というものもある。
2036年という時代はなにか人をひきつけるものがあるのかもしれない。
それはともかくとして、平野啓一郎が描く2036年という世界はそれほど飛躍的な未来ではなく、かなり現実的で現在の延長線上に存在している。それ故に、そこに描かれた世界はバラ色の未来ではなく、幸福も不幸も平等に存在し、むしろ今よりも悪くなっている部分もあり、プロパーなSF作家でない作家による未来の世界というのはなかなか刺激的だった。
しかし、平野啓一郎の小説を読むのは今回が初めてなのだが、どうも既視感がある。それがなんなのかといろいろと考えていたら、瀬名秀明にたどり着いた。そう、この物語は瀬名秀明が書いてもおかしくない装いを持っているのだ。ただ、瀬名秀明は根底に物語の力を信じている部分があるのに対して、平野啓一郎の『ドーン』はそれほど物語というものを感じさせない。それが読みづらいという人もいるのだろうけれども、物語が邪魔をしなかった分、僕には読みやすかった。

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