片岡若子の絵ってのは卑怯だなあ。
最初は買うつもりなんかなかったのだけれども、表紙の絵を見ていたらなんだか引き込まれるようにして買ってしまった。
どんな物語かといえば、帯に書かれた推薦文を映画監督の大林宣彦が書いていることから想像できる物語だ。そして、推薦文を大林宣彦に頼んだ時点で、どんな推薦文を書こうがもはや問題ではない。
広島弁というと『仁義なき戦い』を思い出す世代なので広島弁にたいして荒々しさというものを持っていたのだが、この物語での広島弁というのはなんだか新鮮で、繊細で、そしてさわやかなことに少し驚いた。読んでいて心地よいのだ。
そしてその広島弁でしゃべる主人公たちのの二つの物語が語られる。
一つ目の物語は単体でみればそれほどたいした物語ではない。多分よくある少し不思議で切ない物語だ。
しかし、二つ目の物語とそれを覆うもうひとつの時間軸の視点によって一つ目の物語がおおきく変化する。
切ない幻想奇譚かと思っていたら、少しぎこちなさはあるものの良質なミステリでもあって、片岡若子の絵といい、大林宣彦の推薦文といい、これはちょっと贅沢な本なのではないだろうかと思った。
コメント