『さらば、やさしいゆうづる』が良かったので、こちらも読んでみることにした。
というかこちらの方は小川洋子が原作を書いているということに驚いた。来月に小川洋子の小説版が出るということは小川洋子が漫画の原作としてこの物語を書いたということである。小川洋子の持つ丹精というものとは少し違うけれども、有永イネの絵は悪くない。
一話完結の連作短編なのだが、主役も登場人物も共通でありながら次の話では主役が子供の頃の話だったりと時系列がバラバラで、あからさまに何か仕掛けがあるという雰囲気をかもし出している。もっともその仕掛けは主人公をめぐる物語を少しずつ明らかにさせていくという程度のものなのだが、先に語られたエピソードが後の話で結びつくとき、ああ、あれはそういう意味だったのかというちょっとした驚きを与えてくれる。
最果てというのは空間的な意味であると同時に、ここでは時間的な意味も持つ。つまり一番最後に訪れる場所ということだ。それ故にかどの話も、薄く死の影が漂い、悲しさが横たわっている。
百科事典を書き写す男の話が一番気に入った。男が書き写す百科事典では「し」の項目が一番多く、「し」だけで一冊が終わっている。それは世界が「し」に満ちているからだ。
そして「し」は「死」につながる。
改めて小川洋子の発想の凄さに恐れ入ったと同時に、それを漫画にして受け止めた有永イネにも驚いた。
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