晶文社という出版社がある。
一般的にはほとんど知られていないマイナーな出版社だろうけれども、SF好きやミステリ好きにとっては重要な出版社だった。
だったと過去形なのは2009年に晶文社が文芸編集部門を縮小、事実上の閉鎖をしてしまったからだ。利益がでなければ良い本も出すことはできない。
SF関連ではジュディス・メリルの評論集『SFに何ができるか』を出し、ミステリ関連では都筑道夫の評論集『死体を無事に消すまで』と『黄色い部屋はいかに改装されたか?』を出してくれた。
『SFに何ができるか』の方は早々と絶版になってしまったが、『黄色い部屋はいかに改装されたか?』の方は長いこと版が続き、いつでも入手可能な状態だったが、とうとう絶版をなってしまったらしい。
そこでフリースタイル社がその後を継ぎ、いくつかの評論を追加して増補版を出してくれた。
追加された部分で特にうれしいのは佐野洋との名探偵論争を収録してくれたことだろう。佐野洋の『推理日記』でしか読むことができなく、なおかつ僕も未読だった。
もっともその内容を実際に読んでみると相互に話がかみ合わず、なんだかお互いに重箱の隅を突っついているだけのような感じで消化不良気味だったが、これが論争という形ではなくタッグを組んでのミステリ論という形に発展していくのだったらもっと有意義だったかもしれない。
SF方面においてかつて都筑道夫は矢野徹と出来レースの論争を仕掛けたことがあって、このときも尻つぼみになってしまったことを思うと、論争というのは難しいものだと思わざるを得ない。
次にうれしいのは法月綸太郎の丁寧な解説が付いていることだ。都筑道夫の理論的後継者ともいえる法月綸太郎による解説だ。
この解説を読むと、できるならば法月綸太郎による都筑道夫論が読みたい気持ちになってくる。
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