『空が灰色だから 1』阿部共実

  • 著: 阿部 共実
  • 販売元/出版社: 
  • 発売日: 2012/3/8

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ムーミンで有名なトーベ・ヤンソンの短編に「思い出を借りる女」という話がある。
自分が過去に住んでいた部屋に住む女性を訪ねると、その女性は主人公が経験した過去の思い出を自分の経験した過去の出来事として語りだすという話だ。
阿部共実の『空が灰色だから』を読んでいたら似たような話が登場して驚いた。阿部共実の漫画の場合、主人公の方が他人の過去を自分のこととして話すのだ。そして主人公はその話の最後で自分の記憶の方が間違っていることを知らされ愕然として終わる。
そのほかにもこんな話がある。
主人公は女の子の前に出ると恥ずかしくなってうまくしゃべることも出来なくなってしまう初心な高校生。しかし、彼のクラスの中に、本当は男の子なんじゃないかといううわさもある背が高く男っぽい言葉使いの女の子がいて、彼女に対しては普通にしゃべることが出来た。あるとき主人公とその彼女は日直当番となるのだが、二人でその仕事をしている最中、主人公は彼女に、僕が君とうまくしゃべることが出来るのは君が男だからだと言う。そして次のページ、彼女の一言でこの話は終わるのだが、それまでが主人公の男の子の物語であったのに対して、最後のたった1コマでこの物語が彼女の物語として転換されて終わる。無神経な一言が、それが無神経であることを理解できなかったが故に、相手を傷つけ、そして自分も傷つく。
しみじみとした、心にしみるいい話もある反面、サイコホラー的な話もある。読んでいてどちらのほうに着地するのか予想も付かないのはどちらも表裏一体的であり、見えない一線を越えるか越えないかの違いに過ぎないということなのだろう。

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