火星の人、あるいは技術者的思考

やってみなければわからない。という言葉がある。
ま、たしかにそうなんだけれども、僕はこの言葉が嫌いだ。
特に、僕は技術者のはしくれなので、こと仕事に関してはこの言葉は使いたくはない。
技術者であれば、やる前にどういう結果になるのかぐらいは把握しておくべきことで、それができないのであれば、自分の技術の未熟さを噛みしめるべきだと思っている。
なので、実行する前にすでにどういう結果になっているかは理解しているべきで、実行するとなった時点では淡々と作業を行こない、予め想定した結果を出すだけだ。
しかし、その一方で、トライアルアンドエラーという言葉もある。あれこれ考えて最終的にどういう結果になるのかまで考えぬいて作業を進めるよりも、とりあえずやってみて、そしてダメだった場合は別の方法を考えればいいというやり方だ。昨今の、スピードが要求される事象に関していえば、こちらのやり方のほうが喜ばれる。
そんなわけで、自分のような考え方は時代遅れなんじゃないかと思う今日このごろでもあるのだけれども、この本を読んで、力づけられた。

  • 訳: 小野田和子
  • 著: アンディ・ウィアー
  • 販売元/出版社: 早川書房
  • 発売日: 2014/8/22

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火星でのミッション途中でトラブルに見まわれ、ミッションは中止されることになり、ミッションのメンバーは地球に帰還することとなったのだが、そこで事故が起こり、主人公は一人、火星に取り残されてしまう。
通信機も壊れてしまったため、地球との連絡もとれず、しかも主人公は事故で死んでしまったと思われた状態だ。
そんな中、主人公は一人、火星で地球から助けが来るまで諦めずに生き延びようとする。
ミッション半ばで一人っきりになったお陰で食料に関していえば、いなくなった他のメンバーの分も残っており、それらを総合すればおおよそ300日程度は生き延びることができるし、酸素も水も十分に存在する。生きていく上で当面の問題は無いのだが、次の火星でのミッション開始は四年後だ。地球では主人公は生きているとは考えていないので、それより前に救出プロジェクトが立ち上がる可能性はゼロだ。つまり地球からの助けは四年またなければならない。そして今のままではそこままで生き延びることはできない。
というわけで短期的には問題ないけれども長期的には問題のある状態で、しかも一見して助かる可能性など無い状態だ。
しかし、それでも主人公は諦めない。
で、何をするかといえば、見積もりをするのである。
一日に必用な最低カロリー数を計算し、四年間を生き延びるのに必用なカロリーの総量を求める。そして手持ちの食料がどのくらいのカロリー数かを計算し、足りないカロリー数を求める。主人公が手に入れなければいけない食料はカロリー数として計算されるのだ。
次に、主人公は手持ちの食料の中からじゃがいもを見つける。
そこから主人公は火星でこのじゃがいもを栽培し、現状のままでは不足しているカロリーを生産し始めるのだ。
もちろん、闇雲に土に植え、水をやり、じゃがいもを育て始めるわけではない。事前にじゃがいもの栽培に必用な作付面積を計算して栽培に必用な養分のある土を作ることから始めるし、栽培に必用な水の量も計算し、その量の水を作り出そうとする。すべて、事前に計算し、その方法で必用な結果が得られるとわかった時点で行動を起こす。
もちろん、失敗すれば自分の死につながるから予め綿密に計算しているわけだが、じゃあ、自分の死につながらないことであれば計算せずに大雑把に実行しても構わないのかといえばそうじゃないだろうと思う。
というわけでやっぱり、やってみなければわからないんじゃなくって、やる前に行動の結果がわかっている方がいいよなあと思うのだ。
読んでいてこんなにわくわくさせられた物語は久しぶりだった。
技術者ならばこの本の面白さはわかってもらえるんじゃないかと思う。

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