『捨て猫という名前の猫』樋口有介

  • 著: 樋口 有介
  • 販売元/出版社: 東京創元社
  • 発売日: 2012/3/10

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物語のシリーズ物は大きく分けて二種類に分かれる。
ひとつはシリーズが進むにつれて物語内の時間が経過していくもの。もうひとつはシリーズが進んでも物語の中の時間は経過しないもの。
前者の最たるものは赤川次郎の<杉原爽香>シリーズで、1988年に第一作が書かれて以来、毎年一作のペースで刊行されているが、その中で主人公は一歳ずつ歳をとっていくのである。
15歳で始まって、2011年で38歳。
かつて赤川次郎の小説を読んでいたときにこのシリーズを5冊くらいは読んだ記憶があるが、今でも継続していることを思うと、途中で止めておいてよかったと思う。
赤川次郎が途中で継続をあきらめてしまい、ある段階でこのシリーズを終了させてしまう可能性もあるが、場合によっては延々と続く可能性もある。その場合、作者の死によってシリーズは中断してしまうこととなってしまう。
赤川次郎のことなのでひょっとしたら、主人公が80歳くらいになるまでの分をあらかじめ書き終えていて、作者の死後も年一冊のペースで刊行されるという可能性も否定しきれないのだが、そうなったらなったで、今度は読者の方が先に亡くなってしまう可能性も出てくる。
無論、あらかじめ書き終えておくことなど無かったとしても、赤川次郎の死後、誰かがこのシリーズを引き継いで、主人公が80歳になるくらいまで書き継がれる可能性もある。
ドイツの<ペリーローダン>シリーズがそんな感じだ。
それに比べると、樋口有介の<柚木草平>シリーズは時系列があいまいなので、どの話から読んでも、またどこで読むのを止めてしまっても大丈夫なので安心して読むことが出来る。
もっとも、こういうシリーズに限って一冊読み終えると、次の一冊へと手が出そうになってしまう、あとを引く面白さがあるので、困ったものだ。
基本的にどの話から読んでも問題ないので、そのときそのときに目についた話から読んでしまっているが、さすがに後の話になってくると主人公が警察を辞めた理由とか、こまかな説明は省かれているので、最初に読むのであれば第一作から読むべきだろう。
今回は一人の少女の自殺をめぐる話。
事件の真相や関係者たちを取り巻く状況は、残酷で、切なくて、そしてやりきれなさが横たわっている。
今回はさらにそれプラス、悲しい事件が追加され、主人公が謎を解明し事件が解決してもなお、救いの無いやりきれなさ残る結末となるのだが、それでもほろ苦い余韻といったレベルに持ちこたえているのは主人公のキャラクター造詣のよさから来るものだ。
読み終えて、次の話を手に取りたくなる。

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