金城一紀の『SP 警視庁警備部警護課第四係』を読んでいなかったらもう少し楽しめたかもしれない。
SPという仕事をアクション物語としてではなく犯人の行動を理詰めで読み、その行動を阻止するという展開はそれはそれで面白いのだが、途中ではさまれる主人公がSPを止めるにいたったエピソードと似たようなエピソードが金城一紀の物語にも登場し、物語り全体に既視感をもたらせてしまう。
チェスのパートにしても、似ているというわけではないが、小川洋子の『猫を抱いて象と泳ぐ』を比べてしまい、物足りなさを感じてしまう。
そもそも、アメリカ大統領が犯人だ、というとんでもない設定でありながら、物語が進んでいくにつれて、それがだんだんと矮小化されてしまうのだ。
これが、当初の設定どおり、ジョー・ゴアスの『硝子の暗殺者』並みの陰謀であったのならまだしも、たしかに予想外の展開で、まんまと作者に騙されたことには違いないし、タイトルにこめられた意味は鮮やかなのだが、いい意味で騙されたというよりも、詐欺にあったといったほうが近い。
もっとも、シリーズ化したならば続きを読んでみたいと思うだけの面白さはある。
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ボビー・フィッシャーをモチーフに:キング&クイーン
キング&クイーン (講談社文庫)作者: 柳 広司出版社/メーカー: 講談社発売日: 2012/02/15メディア: 文庫 チェスをテーマにしたミステリ小説。 「ジョーカー・ゲーム」の筆者らしく、陰謀を絡めて作られたストーリーは十分に楽しむことができる。