題名が題名だったので、巽孝之の『日本SF論争史』のような本だと思っていたらかなり違った。
『日本SF論争史』が論争そのものを加工せずにそのままつなぎ合わせることによって日本のSF史を浮き立たせているのに対して、こちらは起きた出来事を作者の目を通した形で組み立てなおし、さまざまなデータを補足し解説している。それ故に、戦後の日本SFがどのような道筋をたどってきたのかというのがより俯瞰的でわかりやすい形となって現れてくるのだが、前作よりページ数が増えたとはいえ、細かな部分は省略されてしまっているので、深く知りたいという場合には物足りなく感じられる。もっとも、その場合は巻末に参考文献があげられているので、そちらをあたればいいだけの話だが。
興味深いのはSF事件史とありながらも、アングラ演劇、サブカルといった一見SFとは無関係に思える方面にも目を向け、SFとの関連性について紙面を費やしている点だ。SFから少し離れた地点を語るときに見せる作者の視点が、予想もしない視点で、驚きに満ちている。
ああ、だからというかそれ故に、もっと詳細に書いてほしいという欲が生まれてくる。
高橋良平の「日本SF戦後出版史」が完結するのを待つしかないのだろうか。
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