『第六ポンプ』パオロ・バチガルピ

  • 訳: 中原尚哉
  • 著: パオロ・バチガルピ
  • 販売元/出版社: 早川書房
  • 発売日: 2012/2/9

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パオロ・バチガルピの描き出す世界はなんだか心地よい。
富の単位がドルでもなく円でもなくクレジットでもなく、ジュールという単位で計られる世界。
肉体を楽器のフルートに改造された姉妹、そして官能的な演奏シーン。リチャード・コールダーっぽい感じもするけど、パオロ・バチガルピの世界ってサイバーパンクからテクノゴシックを経てたどり着いたって感じもしないでもないなあ。リチャード・コールダーはブームになる前に消えてしまったけど。
水資源が枯渇したり、石油資源が枯渇した後の世界。
それは明るい希望に満ちた世界ではなく、世界を直視すれば絶望しかない世界で、それは僕の好きな破滅物SFに通じる世界なのだ。
しかし、そこで描かれる人物たちは絶望しきってはいない。パオロ・バチガルピの描く世界は何かが欠乏した世界を描いているのだが、そこに住む人たちは世界がどんな風になろうとも、生き続けている。
滅び行く世界を救おうとか、革命を起こして世界を変えようとか、そんな大上段に構えた事などしようともしないし、考えもしない。自分自身ができる、身の丈にあったことだけをしようとしているのだ。
もちろん、その結果何が大きく変化するというわけでもなく、世界は緩やかに滅び行こうとしているのだけれども、自分がするべきことをしたというある種の満足感というものを得ることはでき、そんな等身大のささやかな満足感があるゆえにパオロ・バチガルピの描き出す世界は生々しく伝わってくる。

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