遅ればせながらヘレン・マクロイの『幽霊の2/3』を読んだ。
いわくありげな登場人物たちを一通り登場させてから殺人事件が起こる。それも衆人環視の中でだ。
僕はわりとせっかちなほうなので、ミステリというと早い段階で事件が起きてくれないといらだってしまう方なのだが、書き手の筆運びがうまいと、そんなことなど気にならずドキドキしながら読むことができる。マクロイのこの本もそうだった。ひょっとしたら、事件など起こらなくっても最後まで楽しんで読むことができたかもしれない。
それはさておき、衆人環視の中での殺人という事件でありながらも、物語の焦点は殺人トリックのほうには向かわない。それどころか犯行動機の方面にすら向かわないところに驚かされる。
登場人物、特に探偵役の人物の関心は殺された人物自身にたいする興味であり、それがこの本の題名とも繋がるのだが、「2/3」よりも「1/3」だったほうがよりぴったりくるはずなのが少し惜しい。
そして何よりも、全編においていたるところに事件の真相に結びつく伏線が張り巡らされていたことがわかる終盤の解決シーンは圧巻だ。僕はさっぱり気づかなかったのだが、ここまでやられるとぐうの音も出ない。
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