『魔女系~タカハシマコ短編集~』タカハシマコ

  • 著: タカハシ マコ
  • 販売元/出版社: 双葉社
  • 発売日: 2011/12/12

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四十過ぎのおっさんが、タカハシマコの漫画なんか読んでいて良いのだろうかと思う時もあるのだけれども、タカハシマコの漫画は面白いのだからしょうがない。
ここでいう面白いというのはSFでのセンス・オブ・ワンダーと同意義だ。
今回は様々な形の魔女を描いた「魔女系」シリーズ五編とそれ以外の短編四編からなる少し変則的な短編集で、「魔女系」シリーズも含めて基本的には軽いコメディーなのだが、「魔女系」シリーズの四話目「お隣の魔女」で、がつんとやられた。
それまでの三作がコメディーだったので、「魔女系」シリーズはコメディーでまとめられているのだと思っていたら「お隣の魔女」だけは違った。
家が隣同士の幼なじみの二人。将来は魔女になりたいという夢を持つ女の子の方は、男の子の事が好きで、大人になったら結婚してあげると男の子に言う。男の子もまんざらではない。
やがて二人は成長し、高校生となるが、二人は疎遠になってしまう。女の子はどうやら魔女になってしまったらしい。
男の子は昔の彼女を取り戻そうとするのだが、タカハシマコの描く物語の結末は衝撃的だ。よくもまあ、こんな角度からこんな嫌な雰囲気を差し込めるものだと感心してしまう。
後半の短編も衝撃的だ。
「人間椅子」ならぬ「人間子供椅子」も素晴らしいが、「エーベル851」がダントツに素晴らしい。
年老いた校長先生と女生徒の恋愛話なのだが、タカハシマコの筆致は繊細でありながらも大胆で残酷だ。
地球から五十億光年離れた星に関する授業風景から始まる。五十億光年離れた星の光は五十億年前の光なのである。その後、校長先生の五十年前の恋物語が語られる。校長先生が時折眺めている一人の少女の写真は五十年前のもので、それは叶えられなかった恋の相手だ。そして校長先生はいまでもその少女のことを忘れることができないでいる。
その校長先生に恋いこがれる女生徒は、その事を知って、自分と校長先生とのあいだにある距離の遠さを実感してしまう。五十年前の時間を生きている校長先生との距離は五十光年も離れているのだと。ここでタカハシマコは時間を一瞬にして距離に転換させてしまうのだ。さらに凄いのはプラトニックにしかならないようなこの恋愛を、きれい事では済まさずに生々しい恋愛にしてしまっていることだ。
こんな漫画を描いてしまうからタカハシマコを読むのを止めることができないでいる。

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