『蛇の王』東郷隆

一冊の本との出会いというのは幸運な場合もあれば不運な場合もある。
僕が東郷隆という作家を知ったのは「定吉七番」シリーズを通してであって、「定吉七番」シリーズはイアン・フレミングの「007」シリーズのパロディであったけれども、「007」シリーズには興味がなかったので、泉晴紀の表紙絵に手に取ることはあったけれども、読むことはなかった。
しかし、「007」シリーズのパロディと泉晴紀の絵は僕にとって強烈な印象を残し、東郷隆といえば「定吉七番」シリーズの作者というイメージがこびりついてしまい、東郷隆がそれ以外の本を書いてもまったく目に入らなくなってしまったのだ。
しかし年月が経つと、「定吉七番」シリーズの呪縛も薄れてきたのか東郷隆に目がいくようになってきたようで、『蛇の王』に対して読んでみようという気持ちが湧いてきた。
19世紀のインドに実在した、スカーフを武器に殺人を繰り広げる謎の集団「タグ」の最後の首領の物語という時点で期待値が跳ね上がる。
巻頭に登場人物の一覧表が載っているがそこに書かれた人物説明を見るだけでもワクワクする。それほど魅力的な人物ばかりが登場するのだ。しかも文庫にして上下巻780ページ程の分量だから、さぞかし楽しませてくれるだろうと思っていた。
が、しかし、当時のインドという社会の歴史、文化的な背景、等、申し分ないほど書き込まれ、そして登場する人物も過不足無いのだが、最後が尻つぼみになってしまっているのが残念。
いや、これはこれで全てを明らかにはせず、謎は謎のままで余韻を残したまま終わる結末は悪くはないのだが、そこに至る展開と情報量とを比較するとバランスが悪いよなあと思ってしまう。

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